#1:
たった今の今まで、そいつはクラスメートだったのだ。
それが今はどうだ、残骸、クラスメートの残骸に成り果てている。
今はもう、今はもう本当に、それが何だったか、誰だったか判らないが、それは確実にカワイだったのだ、僕のクラスメートの
#1:カワイ
「おい、ヒラマサ、次移動だぜ?」
「いや行かない、今日は面倒だ」
わざわざ起こしてくれたタジマに、きっぱりと言う。
腕に力を入れて上体を起こす、何だか今日はだるい・・・何時もそうだが、とりわけ今日は特に。
何しろ身体を動かすだけで溜息が出るんだ、こんなで体育なんて、呆れて溜息も出ない。
「あ、そう」
そう言ってタジマは行ってしまう、もう少し粘ってもいいと思うけど、何時もが何時もだから当然だろう。
僕がタジマなら、まず起こさない。
タジマは優しいのだ。
ややあって、グラウンドの端、砂場の横。
鉄棒の柱に背中を預けている、随分と暑いけれど鉄棒は冷たかった。
タジマが張り切っているのが見えた、彼のようなまともな人間には、燻っている煙は見えないらしい。
体育館では他クラスの女子がバレーをやっている。
男子と同じように、見学が一人だけ居て、ガラス越しにグラウンドを見ている。
結構美人だった、薄幸の美人とかそういった感じで、肌が白い。
眼福とばかりに足ばかり見ていたら、目が合いそうになったので、遠くを見る振りをした。
湿った、それでも表面は乾いたグラウンドに、女子特有のあの甲高い悲鳴だか歓声だかが漏れている、矢張りまともな人間はバレーを楽しんでいるのだろう。
もう一度彼女を見ると、向きを変えてガラスに背を預けていた。
名前を知りたかったが、その術が無かった。
「・・・それでは気をつけて帰るように、それとカワイはこの後職員室に来い」
帰りのホームルームが終わると、担任のヨシオカがカワイを呼びつけた。
タジマの話だと、どうやら中学生相手にカツアゲしたらしい、よく有る話だが、良くない事だ。
タジマが「アイツ停学喰らってるからさ、ひょっとしたら退学かもな」と言った、そんなものに興味は無いのだけれど。
ヨシオカが出て行くと、カワイが思いっきりロッカーを蹴飛ばす音が響いた。
図書室は随分と静かだった。
クーラーの低く唸る音と、ページを捲る音だけが聞こえる。
短縮日課のせいで、放課後の図書室は未だに2時、夏だから滅茶苦茶暑い。
返却と書かれたダンボールに、借りていた本を置き、自分でカードを書く。
通常図書委員がやるはずの業務だろうに、職務怠慢だかカウンターに人は居なかった。
図書室のクーラーは、随分と効きが悪かった。
と言うか、効いてない、まるで効いていない。
この猛暑でよく本が読めるなと、顔をちらと見ると、見学の彼女だった。
肌の白い彼女は涼しい顔をしていた。
図書室は摂氏28℃だというのに。
かきん、かきんとバットの音が響いている。
窓の外では野球部が青春を謳歌していた、野球は好きだが泥つきの青春は嫌なので、入ろうと思ったことは一度も無い。
廊下はひんやりとしていたけれど、日が当たるところは熱を持っていて、ちりちりと音がしている気がした。
少し、におう。
少し、嗅ぎ慣れた匂いがした。
何故か焦る、鼓動の音が聞こえる、足が止まる、嗅ぎ慣れた匂い。
一瞬、何かを思い出しかけて、何かを忘れたようで、何かを見た。
エッジの効いた音楽が流れるようで、グランジとハードの中間、長い沈黙。
はっとすれば、太陽が僕の足元をちりちりとやっていた。
今の一瞬が思い出せない、まるでさっきまで見ていた夢を忘れたようにはっきりしない。
なんだったかな、と一つ呟いて歩みを進めると、焦りが少し戻った。
「何してんだ」
呼ばれた方向へ首を向けると、タジマが居た。
小脇にサッカーボールを抱えている、何も此処まで持ってこなくても良いだろうに。
「さっきカワイが教室戻ってたからな、お前、教室行くなら気をつけたほうがいいぞ」
「早いな、てっきり親でも呼ぶもんだと思ってた」
「被害者に謝らなきゃならないんじゃねぇの?親はさっき来てたみたいだし・・・」
カツアゲされた少年が、カツアゲした少年に謝られても何の助けにもならないと思うのだが、まぁ、社交儀礼とかそういうのだろうか。
されたほうは堪ったもんじゃないと思うが。
「まぁ、気をつけて」
「ん、ありがと」
適当に挨拶を済ませて、タジマはグラウンドへ戻っていく。
自分も帰ろう、そう思い教室へ足を向ける。
先ほどのような焦りはもう無かった、ただ駅まで歩くのが面倒だ。
カワイが居たら出来るだけ目を合わせない様にしようとか考えながら、教室のドアを開ける。
扉がカラカラと開くと、そこにはカワイが居た。
スチールのゴミ箱がベコベコに歪んでいて、あぁミスった、と思ったときにはカワイと目が合ってしまった。
#0:Intro
大体まぁ、公共の機関ってのは安全なイメージがあるもので、大勢の人間が集まっていれば、特異な状況にはそうそう成らないと思っている。
それは動物の習性みたいなもので、群れていれば、複数の他人が居れば、大抵のトラブルは何とか成る、人名如何の問題が伴う事件が起きても、まぁ最悪でも標的になるのは避けられる、と思い込んでいる。
勿論それは大きな間違いで、何らかの形でそんな事件が起これば、いくらかの確率で自分にもお鉢が回ってくる可能性がある。
ただ実際、大勢居れば"当たる"確立は下がるし、衆人環視の中で窃盗・殺人の類を実行しようなんて考えは普通しない、リスクに対して見返りが少なすぎるからだ。
普通は皆、そう考える、目の前で人が殺されるなんて、有り得ない。
そういう考えを捨てるときは2つある。
1つは、目の前で人が殺されたとき。
もう1つは、
目の前の人間を殺したときだ。
目次
・自分が好きなアーティストのトラックタイトルからインスパイヤした何かをだらだら書き連ねる企画。
思いつきで書いた文章。
・天晴
・問い掛け
・裸電球
・公園
・魔法
・オーマ
・お題小説「プレゼント・メガネ・変わった愛の形」 (mixi掲載作)
随時更新予定
連載(未定)
・タイトル未定
随時更新未定
創り手さんにいろはのお題
こちらよりお借りしました。
諸所の都合により別ページに置いてあります。
リング/同盟
参加しています。