ろ ろくな男じゃありません

子供の頃窓辺に出て星を眺めていれば、母親が心配そうな顔をして一緒に寝てくれた。

母親が傍に居れば、温もりに包まれて居るうちに嫌な事は全部忘れて、目が覚めるまでは夢を見れた。

そういうことがあるうちに、少しずつ歳を取るうちに、自分の中で「星を見る」という行為自体が「嫌な事を忘れる」ということに直結していった。





朝のうちに、彼女と別れた。

3年だか4年だか一緒に居た筈だが、別れの際はやたらとあっさりしたもので、交際を契約とするなら、それに対する契約破棄のような体裁だった。

簡単だった、午前9時ごろにファミレスに呼び出され、それで別れを切り出され、おしまい。

今思えばファミレスってのも無いだろうと思ったが、それまで。

とりあえず反吐が出た、別れ話さえ風景にする雑踏に、である。





ただ、最後に一つ言い訳を聞いた。

彼女の思うには、俺に父性を求めたのかも知れないと言う。

成る程、そうか、それは無理な相談だ。

何しろ俺は誰かに母性を求めて仕方が無いのだから、とにかく一人で寝る夜を無くしたいだけだったのだから、無理な相談だ。

とりあえず反吐が出た、思うようにならなかった彼女に、である。





彼女を失って、もう一度夢の無い夜を迎えること自体は、実際怖くなかった。

無論、悲しみはあるにせよ、それは月並みな物であって、心底惚れた女性である場合にはもっとマシな物があるだろうと勝手に思っている。

勝手に思っているだけで確信は無い、それは本気で願った恋が成就しなかったからだ。

結局思い出を求めてすれ違うだけで、二人に残るものは何も無かった、そこには記憶も絡めて全て置いて来た筈だった。

思い出してまた反吐が出る、何もかも昔に置いて来て、それを言い訳の材料に出来る自分に、である。





かの約束の眠る日と同じ、雨の降る夕方。

することも無く、ただ空を眺めてタバコをふかしている。

雨が上がって、空が晴れれば、星が出るだろう。

星さえ見えれば、多分俺は、何もかも忘れられる、思い出すのが嫌な事全部。





星が出ている。

気付かないうちに晴れていたようだ、濡れた縁側には、切れ切れになった月が乱反射していた。

これで忘れられるだろう。

とりあえず一先ずは、嫌な物は全部。

そしてそれを悲観して、忘れたことを覚えていることでなんだか自分を鼓舞しているような気になって、スポットライトに当たりたいのを必死で隠してアウトローを気取っている自分も。

そういうことを全部わかった上で、いやらしく笑みを浮かべる影の本体も、忘れられる。

ひとしきり心に浮かべてから、俺は星を見る。

つまりは、そういうことだ。