0-02-01から1ヶ月間の記事一覧

周回温度 (mixi掲載作)

春。 全てがやんわりと輪郭をぼかし始め、その色に赤みを注す夕日が地平線を逆転させた或る日。 一本の蛇がうねり、平地を揺るがす、その先に鼻先を合わせる一羽の兎、その耳を切り取って額縁にする。 夏。 緑がその真実を取り戻し始めること既に四回、朝日…

リンネ (mixi掲載作)

その日、芦野は快晴だった。 高山は隣でギターを弾いている、つい先程までちまちまと「ワインレッドの心」をやっていたのだが飽きたらしい、今は「REAL MAN'S BACK」のイントロを繰り返している。 俺たちは川べりのコンクリートに腰掛けて、何をするでもなく…

お題小説「プレゼント・メガネ・変わった愛の形」 (mixi掲載作)

夢を見た。 僕はリビングにあるようなテーブルセットに座っていて、彼女がその向かいに座って、僕達は何かを話している。 ふと、彼女が思いついたように「何色が好き」かと聞いた。 僕はちょっと詩人になったような雰囲気で、 「そうだな、僕は、赤が良い」 …

オーマ

仕事を終わらせた時には、深夜2時を回っていた。画面から目を、キーボードから手を離すと急に喉が渇いたのを感じる、冷蔵庫には麦酒一本入っていなかった。 財布を持ち、コンビニまでを歩く。夜道を歩くのは何となく好きだった。小さい頃、夜は外に出して貰…

獏の夢

喰いすぎた 余りの満腹感に何も考えられない 眠い 一体何だって人間どもは下らない夢を見続けるんだろう 良い女を抱く夢 良い男に抱かれる夢 金持ちになる夢 スターになる夢 どれもこれも無駄な算段 只の妄想 おれは獏だから そういうもんを喰っていかなきゃ…

最初、それは皆見えているものだと思った。それは人間の体のいろいろな部分から伸びていて、その先は途方も無い遠方に続いていることもあるし、すぐ近くに繋がっていたりもする。繋がってる対象は何でもアリで、人だったり物だったり、場合によっては千切れ…

嘘も方便

先日、大学の友人を連れて実家に帰った。 実家は海の近くで、夏休みを利用して海に行くついで、俺の実家で宿代を浮かそうという目論見だ。 首都からおよそ3時間の旅、本土から少し離れた島まで空の旅を経て、僕らは青い海と白い砂浜を眼前に迎えた。 「へぇ…

魔法

午後の授業が始まり、45分が経つ。この学校では、午前は3時限まで、午後は2時限までの1日5時限と成っていて、1時限は1時間半ある。つまり現在をもって授業は残り半分、半分しか終わっておらず、半分残っていることになる。 外は曇り、今にも雨が降りそうな勢…

レストラン

昼と呼ぶには遅すぎて、夕方と呼ぶには日が高い気がする日中。休みだったのでレストランに来たのだが、僕はなんともいえない状況に置かれていた。 ・・・・・ 「じゃあ日替わりのAセットください」と、彼女がその、少々高めの声で言う。 お互いに不定休な為…

公園

待ち合わせにおいて、人間は二つのタイプに分かれる一つは、早く来て相手を待つタイプもう一つは、遅れてきて、相手を待たせるタイプだ この2つで言えば僕は後者だ、時たま遅れて相手を待たせる場合もあるけど、それは失敗したケースであって、大体少し早め…

その家には小さな庭があった。 芝生が生えて、少しの植木鉢と、それに伴って株の小さなシクラメンだけがあった。 随分と小さな庭だったが、家主はそれで満足していた。 家主は庭には満足していたが、庭の環境には何かが足りないと、常々考えていた。 何か植…

グレイブヤード

男は墓標を立てるのが仕事だった。 かれこれ20年ほど続けている、一日も休み無く、小さな事務所の椅子に腰掛けていた。 事務所には椅子と机、そして小さな電話がある。 黒く、小さな電話、コイツが鳴れば俺はすっ飛んで行くんだと、男は口の端を吊り上げて笑…

裸電球

その煙突の根元から流れる奔流が、地を伝い、空を伝い、壁を伝い、床を伝い、流れるべき全てを流れて、60ワットで僕を照らしている。 そして海に流れるでもなく、床を伝い、壁を伝い、空を伝い、地を伝い、また順繰りに流れて、並列に繋がれた彼女を照らして…

問い掛け

「人が死んだのに、悲しまないなんて信じられないわ」 と、言われたので。 「この日本では年間3万人の人が自殺してるんだよ、君は3万人分のカナシミを振り撒いているのかい?」 と、答えた。

デスクトップ

それは、画面から出てきて俺の顔を見ていた。 久しぶりに起動したPCは、使わないソフトと、使えないソフトと、使ってないソフトと、ゴミ箱を表示して、低めの駆動音を流している。随分と前にネット環境を遮断したので、出来ることは少なくなっていた。 電源…

とりあえず

或る日の事です。やたら大きな車が、家の前に止まりました。車の後ろは大きな荷台になっていて、その中から沢山の人間が出てきました。 私は家の前で遊んでいたのですが、何やら忙しそうだったので、邪魔に成らない様に門の影に座っていました。車から出た人…

バッティングセンター

振ったバットが、軽やかな音を立てた。いい当たり、とは行かないが、乙女の細腕にすればよくやったほうだ。 放物を描く白球は、金網に引かれたラインを超えずに、金属製のポールに当たって、これまた軽やかな音を立てた。あの赤いラインを超えたくて、去年か…

天晴

思い立ったように、遠い街へ行く。此処最近はそうだ、休日の過ごし方、妙だけど、子供心を擽られるというか、なんというか。冒険心のようなものが、表面に上がってきて、なんだか肩の辺りがザワザワとする、それを体験するためだけに休日を丸潰しにして、知…