0-01-01から1年間の記事一覧

彼と私と幽霊の影

携帯を開く、閉じる。・・・来ない、これで10分。コレが一般なら「よくあること」で済まされるだろう、だけど私が知るクラサキタカシという男子学生はどんな形の約束であろうと"守ろう"とする性質の男だ、多少遅れるなら間違いなく電話、彼の言葉を借りるな…

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ゲートが閉まり、圧搾空気の軽い音が室内に響く。「…この度は御搭乗戴き、誠に有り難う御座います。当社バビロン・スペースラインでは皆様の安全の為に…」とアナウンスが入り、添乗員がシートベルトと付属機器のコンソールを解説して回っている。窓の外には…

は パラボラアンテナ危機一髪

私の町には、大きいというには余りに大きすぎるパラボラアンテナがある。テレビとかラジオの奴だと言われているけど、詳しいことは誰も知らない。ただ、半日かけてようやく一回転するその大きな杯を、町の人々は別に疎ましく思うことは無く、むしろシンボリ…

ろ ろくな男じゃありません

子供の頃窓辺に出て星を眺めていれば、母親が心配そうな顔をして一緒に寝てくれた。母親が傍に居れば、温もりに包まれて居るうちに嫌な事は全部忘れて、目が覚めるまでは夢を見れた。そういうことがあるうちに、少しずつ歳を取るうちに、自分の中で「星を見…

創り手さんにいろはのお題

・い 異人館で逢いましょう ・ろ ろくな男じゃありません ・は パラボラアンテナ危機一髪 「創り手さんにいろはのお題」から頂きました。 お題消化中です。 なんかページ消えてたのでお題書き出しておく い 異人館で逢いましょう ろ ろくな男じゃありません …

い 異人館で逢いましょう

時に、神戸は雨だった。窓に当たる雨粒、それが群れを成して、ゆっくりと、又は足早に硝子の側面を滑り落ちている。パタパタと静かな音の他、辺りは静かだった。 子供の頃の約束というものは、どれもこれも何かしら矛盾を孕んだ物で、少し時を経てみれば随分…

イン・ザ・バスルーム #1

炎天下の中、自転車を漕ぐ。汗が頬を伝っていくのが判る、長引いた梅雨を踏まえてか、夏の面目躍如といったところだ。なんだってこんなことをしているのかと、自分の詰めの甘さを呪う。 僕は今、先日まで自宅だったアパートに向かっている。つい最近、訳あっ…

周回温度 (mixi掲載作)

春。 全てがやんわりと輪郭をぼかし始め、その色に赤みを注す夕日が地平線を逆転させた或る日。 一本の蛇がうねり、平地を揺るがす、その先に鼻先を合わせる一羽の兎、その耳を切り取って額縁にする。 夏。 緑がその真実を取り戻し始めること既に四回、朝日…

リンネ (mixi掲載作)

その日、芦野は快晴だった。 高山は隣でギターを弾いている、つい先程までちまちまと「ワインレッドの心」をやっていたのだが飽きたらしい、今は「REAL MAN'S BACK」のイントロを繰り返している。 俺たちは川べりのコンクリートに腰掛けて、何をするでもなく…

お題小説「プレゼント・メガネ・変わった愛の形」 (mixi掲載作)

夢を見た。 僕はリビングにあるようなテーブルセットに座っていて、彼女がその向かいに座って、僕達は何かを話している。 ふと、彼女が思いついたように「何色が好き」かと聞いた。 僕はちょっと詩人になったような雰囲気で、 「そうだな、僕は、赤が良い」 …

オーマ

仕事を終わらせた時には、深夜2時を回っていた。画面から目を、キーボードから手を離すと急に喉が渇いたのを感じる、冷蔵庫には麦酒一本入っていなかった。 財布を持ち、コンビニまでを歩く。夜道を歩くのは何となく好きだった。小さい頃、夜は外に出して貰…

獏の夢

喰いすぎた 余りの満腹感に何も考えられない 眠い 一体何だって人間どもは下らない夢を見続けるんだろう 良い女を抱く夢 良い男に抱かれる夢 金持ちになる夢 スターになる夢 どれもこれも無駄な算段 只の妄想 おれは獏だから そういうもんを喰っていかなきゃ…

最初、それは皆見えているものだと思った。それは人間の体のいろいろな部分から伸びていて、その先は途方も無い遠方に続いていることもあるし、すぐ近くに繋がっていたりもする。繋がってる対象は何でもアリで、人だったり物だったり、場合によっては千切れ…

嘘も方便

先日、大学の友人を連れて実家に帰った。 実家は海の近くで、夏休みを利用して海に行くついで、俺の実家で宿代を浮かそうという目論見だ。 首都からおよそ3時間の旅、本土から少し離れた島まで空の旅を経て、僕らは青い海と白い砂浜を眼前に迎えた。 「へぇ…

魔法

午後の授業が始まり、45分が経つ。この学校では、午前は3時限まで、午後は2時限までの1日5時限と成っていて、1時限は1時間半ある。つまり現在をもって授業は残り半分、半分しか終わっておらず、半分残っていることになる。 外は曇り、今にも雨が降りそうな勢…

レストラン

昼と呼ぶには遅すぎて、夕方と呼ぶには日が高い気がする日中。休みだったのでレストランに来たのだが、僕はなんともいえない状況に置かれていた。 ・・・・・ 「じゃあ日替わりのAセットください」と、彼女がその、少々高めの声で言う。 お互いに不定休な為…

公園

待ち合わせにおいて、人間は二つのタイプに分かれる一つは、早く来て相手を待つタイプもう一つは、遅れてきて、相手を待たせるタイプだ この2つで言えば僕は後者だ、時たま遅れて相手を待たせる場合もあるけど、それは失敗したケースであって、大体少し早め…

その家には小さな庭があった。 芝生が生えて、少しの植木鉢と、それに伴って株の小さなシクラメンだけがあった。 随分と小さな庭だったが、家主はそれで満足していた。 家主は庭には満足していたが、庭の環境には何かが足りないと、常々考えていた。 何か植…

グレイブヤード

男は墓標を立てるのが仕事だった。 かれこれ20年ほど続けている、一日も休み無く、小さな事務所の椅子に腰掛けていた。 事務所には椅子と机、そして小さな電話がある。 黒く、小さな電話、コイツが鳴れば俺はすっ飛んで行くんだと、男は口の端を吊り上げて笑…

裸電球

その煙突の根元から流れる奔流が、地を伝い、空を伝い、壁を伝い、床を伝い、流れるべき全てを流れて、60ワットで僕を照らしている。 そして海に流れるでもなく、床を伝い、壁を伝い、空を伝い、地を伝い、また順繰りに流れて、並列に繋がれた彼女を照らして…

問い掛け

「人が死んだのに、悲しまないなんて信じられないわ」 と、言われたので。 「この日本では年間3万人の人が自殺してるんだよ、君は3万人分のカナシミを振り撒いているのかい?」 と、答えた。

デスクトップ

それは、画面から出てきて俺の顔を見ていた。 久しぶりに起動したPCは、使わないソフトと、使えないソフトと、使ってないソフトと、ゴミ箱を表示して、低めの駆動音を流している。随分と前にネット環境を遮断したので、出来ることは少なくなっていた。 電源…

とりあえず

或る日の事です。やたら大きな車が、家の前に止まりました。車の後ろは大きな荷台になっていて、その中から沢山の人間が出てきました。 私は家の前で遊んでいたのですが、何やら忙しそうだったので、邪魔に成らない様に門の影に座っていました。車から出た人…

バッティングセンター

振ったバットが、軽やかな音を立てた。いい当たり、とは行かないが、乙女の細腕にすればよくやったほうだ。 放物を描く白球は、金網に引かれたラインを超えずに、金属製のポールに当たって、これまた軽やかな音を立てた。あの赤いラインを超えたくて、去年か…

天晴

思い立ったように、遠い街へ行く。此処最近はそうだ、休日の過ごし方、妙だけど、子供心を擽られるというか、なんというか。冒険心のようなものが、表面に上がってきて、なんだか肩の辺りがザワザワとする、それを体験するためだけに休日を丸潰しにして、知…

アイソトープ

彼女が壊れた。 理由は簡単、僕が首を絞めたから。 こうすることは最初から決まってた、彼女もそれを望んでたし、僕もそうしたかった。それがルールだった。 「いつか壊れるの、アイソトープと一緒だね」 最期の瞬間、それまで笑っていた彼女が、酷く後悔し…

ワールドアパート

上の部屋から声が聞こえる。よく判らんが、喧嘩でもしているのだろう、異国情緒溢れる怒声が、一つ下の部屋の電灯を揺らしていた。 唐突に音が止めば、又唐突に始まる。外国語は全く管轄外なので、発音さえ掴めないのだが、「サノバビッチ」とか「マリーシア…

コバルトブルー

部室で彼女を見た。独り黙々と、絵を描いている。 随分と集中している様子で、覗くこちらには気づいていないらしい。絵は蒼海、俗に言う「南の島」のイメージを、正確に抽出していた。 特に変わったところも無く、可も無く不可も無くと言った出来映えの絵だ…

リライト

書き直す醜いほど狂った文章の、その文頭から文末までを。 書き直す醜いほど狂った自分の、その頭から出る、しょうのない感情を。 書き直す呆れるほど長い文章の、その無意味な15行目を。 書き直す呆れるほど長い彼女の、その黒い髪のイメージを。 15日…

銀河の町  1

「お客様、終点ですよ」と、起こされ、僕は我が怠惰を呪った。 あーあー、なんで寝過ごしちゃうかなぁ、ほんと、情けない。 明日会議だよなぁ、あー帰って資料整理しなきゃいけないんだけどなぁ、どーすんだよ、オイ。 っていうか明日の会議中止になんねぇか…