バッティングセンター
振ったバットが、軽やかな音を立てた。
いい当たり、とは行かないが、乙女の細腕にすればよくやったほうだ。
放物を描く白球は、金網に引かれたラインを超えずに、金属製のポールに当たって、これまた軽やかな音を立てた。
あの赤いラインを超えたくて、去年から、通い詰めているのだけれど、一向にラインを超える気配が無い。
2球目はファール、大きく右にそれて、フェンスを大きく揺らした。
ストレス解消に来ているわけじゃない、溜め込むほうでもないし、そもそも不満が有る生活なんて送っていない。
別にあのラインを超えることが、凄く重要なことでもない、むしろ私の優先順位的には最下位だ。
やりたいことは他に幾らでもあるし、正直、利用料金を携帯に当てたいぐらい。
でも、学校が終わると、何となくバットを振りたくなった。
感触が残っているうちなら、あのライン超えられるんじゃないかと。
そうして、週2、いや週1でバッターボックスに立っている。
投球マシンが、大きく振りかぶってストレートを投げ込む。
私のバッティングセンスは、地味に向上していて、普通のボールは普通に打てる位になっていた。
かきん、と乾いた音を立てて、ボールはフェンスに向かう。
ライン真下で、フェンスが、かしゃん、と言った。
そういえば、イチローがホームラン打ったなぁ、と今朝のニュースを思い出した。