魔法
午後の授業が始まり、45分が経つ。
この学校では、午前は3時限まで、午後は2時限までの1日5時限と成っていて、1時限は1時間半ある。
つまり現在をもって授業は残り半分、半分しか終わっておらず、半分残っていることになる。
外は曇り、今にも雨が降りそうな勢いで暗雲が垂らし込めている。
風は無く、無音。
教師が喋る声の他には、時折生徒がページを捲る音がする程度、静かに緊迫している。
「じゃあそれでは、皆さん杖を出してください」
教師の一言で皆が机から杖を出す。
或る者は樫、或る者は檜、或る者は楓で出来た杖。
先端に法術石がこれでもかと埋め込まれている物もあれば、持ち手部分の列石を法力伝導の高いものに換えていたりと色々。
僕のものは杉で出来ている、別に安物では無く、単純に身に合ったものを作るからだ。
革の袋から取り出し、軽く手を添える。
杖を持つことは無い、掌には触れず軽く浮いたままだ、これが本来のフォーム。
存在が吸い付くような感触、今日は調子がいいようだ。
「それでは今日の授業はこれまで、次回は外での演習なので日直さん宜しく」
5時限目をサボって、絵を描く。
街の風景を紙に写す行為、こればっかりは魔法でやっても意味が無い。
鉛筆を滑らせた先にビルを、森を、線路を、あぜ道を描く。
半田舎、半都会のこの街には魔法が掛かっている。
目を向けた場所で変わる時間、風景。
同じ街に二つの時間が流れていて、人々はその奔流を止めるでもなく、混ぜるでもなく。
魔方陣、というものがある。
魔法のスターターとして使われる、絵画とも文字とも付かないこの記号は、全て黄金比で出来ている。
アラベスクともモザイクとも取れない、連綿と繰り返される羅列、これをなぞり、現実への干渉を試み、実践するのが魔法学であり、魔法師の仕事だ。
遥か眼下に広がる魔法の街を、もう一度眺める。
環状線、ビルの路地、ところどころの緑。
この街に掛かった魔法を、見た気がした。
魔法の勉強も、悪くないと思った。