嘘も方便


先日、大学の友人を連れて実家に帰った。

実家は海の近くで、夏休みを利用して海に行くついで、俺の実家で宿代を浮かそうという目論見だ。

首都からおよそ3時間の旅、本土から少し離れた島まで空の旅を経て、僕らは青い海と白い砂浜を眼前に迎えた。





「へぇ、綺麗なトコだな」と友人A。

「この国にもこんな所あったんだな」と友人B。

そうだろう、そうだろうと鼻を高くしていると、改めて日差しの強さに気付いた。

まぁとりあえず、荷物を置きに僕の家に行こう、という話に成り、レンタカーを飛ばした。





実家に着くと、母が待ち構えており、こまめに連絡しろだの、ちゃんと喰ってるかだの、遊びもいいけど大学にもちゃんと行けだの、月並みに親子のやりとりをした後、友人と母親がこれまた月並みに挨拶をした。

暑いでしょう、中にどうぞの一言で、全員中へ、とりあえず元俺の部屋に荷物を置き、海へ出かけることになった。

しかし、いざ、というところで親に呼び止められる、一体なんなのか、俺は海に行くのだが。





「布団干すから手伝って」





おいおい、それは俺が来る前にやるべきだろうと言いたかったが、「あんたが言うの遅すぎるのよ」と言われれば何も言えなくなってしまった。

とりあえず友人には先に行っていて頂く、この道を真っ直ぐだと伝え、布団を干しに2階へ上がった。

地獄のような暑さで、だ。





暑い暑いとこぼしながら布団を干していると、ラス1で友人達が戻ってきた、まだ15分しか経っていない、一体どうしたのだろう。

窓際でへばる僕を認めると、何やら不満そうな顔をしている。

下まで下り、何事かと聞けば、道順を聞くと、島の人に嘘をつかれたと言う。





友人Aが言うには「近道がある」、と。

友人Bが言うには「この先に海岸は無い」、と。

明らかに嘘だ、真っ直ぐ先に海岸が見えているのに、これ以上の近道も、海岸が無い訳も無い。

友人二人は怒るというよりなんだか不思議がって、「何かのブームなんか?」とか「よそ者には冷たいとか?」などと適当な解釈を並べ立てている。

まぁ、僕には判り切った事なのだが。








「そりゃぁな、"嘘も方便"って奴だよ」








「はぁ?」

「や、だからな、嘘も方便。ここの方便が嘘なんだよ」

「あんだそりゃ、そんな地方あるかよ」

「あんだよ、世界広しって奴よ」

「………」

「まぁ、犬に噛まれたみたいなもんだと思っとけ。"うっそー"ぐらいで流しても怒る奴は居ねぇから」

「あー……、なるほど」

「ん?どした?」

「いや、俺としては納得するところでよ」

「ところで何で道順なんて聞いたんだよ、こっから海岸見えてるじゃねぇか」





「だってお前時々嘘つくじゃん」





なるほど。