お題小説「プレゼント・メガネ・変わった愛の形」 (mixi掲載作)
夢を見た。
僕はリビングにあるようなテーブルセットに座っていて、彼女がその向かいに座って、僕達は何かを話している。
ふと、彼女が思いついたように「何色が好き」かと聞いた。
僕はちょっと詩人になったような雰囲気で、
「そうだな、僕は、赤が良い」
「赤と言っても、只赤いのでは駄目だ」
「血の様な、赤が良い」
と言った。
眼を覚ますと、彼女が枕元で微笑んでいた。
目が合うと、さらににこにことして、今にも声をあげて笑い出しそうだった。
「どうしたんだい、そんなににこにこして」
「アラ、覚えてらっしゃらないの?」
彼女は表情を変えなかった、器用に口の形も変えずに、まるで腹話術のように僕に返答した。
「今日はあなたの誕生日でしょう、私、もう楽しみで楽しみで」
「アアそうか、すっかり忘れていた」
これは嘘だ、誕生日なのは覚えていた。
ただ他に良い返しを思い浮かばなかった。
僕が誕生日を忘れて、自分だけが覚えていたことを認めると、彼女はよりいっそうにこやかになって、いよいよ声を出すのではないかと思われた。
僕が顔を洗ってテーブルに着くと、彼女はもうそれはそれは楽しいといった様な顔で、小さな紙袋を持ってきた。
「何だいそれは」
「プレゼントですよ、あなたの、誕生日のね」
彼女は紙袋から、紙箱を取り出して、僕に渡した。
箱はボール紙のようなもので出来ていて、真っ白だった、両端を囲うようにリボンで包装されている。
「開けていいね?」
「ええ、どうぞ」
中には、鉄製の良く分からない物体が入っていた。
一瞬、なんなのかさっぱり判らなかったが、彼女に聞くのは憚られたので、自分で考えた。
斜めにしたり、下から見てみたりして、角度を変えながら観察していると、直感で思い当たった、コレは眼鏡だ。
しかし、それは眼鏡というには少々歪だった、歪んでいる。
ただ折り曲げた針金にレンズがついているだけだ、でもレンズには明らかに度が入っているし、その度は僕の視力にぴったりだ。
しかし歪んでいる、まるで誰かが踏んづけたみたいに曲がっていた。
そして、僕はその歪んだ形状に見覚えがあった。
数年前に、妙な美術館に行ったことがある。
そこにある創作物が捉えているテーマは、どれもが全て、形の無いものだった。
例えば、「興味の無い話」の絵とか、「緊張感」のモビールだったり、「浪漫」を形にした彫刻だったりとか。
その中で、一際目を引いたのは「変わった愛」の形をしたオブジェだった。
それは「愛」と聞いて思い浮かぶようなハートだったりとか、ほんわかした形の物ではなく、歪な針金細工のような、まるで一切の理解を受け付けないような形状だった。
そして、赤かった。
血の様に赤かった。
彼女はまだにこにこしている。
にこにこしながら、大量の汗をかいていた。
「どうしたんだい、そんなに汗を流して、調子でも悪いのかい?」
彼女は「いいえ」と言って、軽く首を振った。
「調子、調子が悪いわけありませんわ、だって私は今こんなに嬉しいんですもの」
「ねぇ、似合います?このワンピース、あなた、赤が好きだったでしょう?」
言われて気が付いた、確かに赤い、ただ、尋常じゃないぐらいに赤い。
「ねぇ、似合うでしょう?あなた、血の色が好きだものね」
彼女の口の端から、ちらりと赤いものが覗く、そして流れた、口から流れたそれは肩を撫で、ワンピースに到達して同じ色として同化した。
「ああ、私、ちょっと眠くなってしまったわ」
「少し、少しだけ眠りますから、許してくださいね」
彼女は言うと、テーブルに突っ伏した。
ワンピースの色が木目に広がる・・・寝息は聞こえない。
「矢張り、眼鏡なんだろうね、コレは」
じろじろと見ていると、眼鏡のフレームに色が付いているのが判った、彼女のワンピースと同じ色。
レンズの位置を確かめて、かけてみる。
「ああ、やっぱり眼鏡だ、ほら良く見える、君のワンピースも良く見えるよ」
「うん、似合っている、でもちょっとリアルすぎやしないか?」