グレイブヤード
男は墓標を立てるのが仕事だった。
かれこれ20年ほど続けている、一日も休み無く、小さな事務所の椅子に腰掛けていた。
事務所には椅子と机、そして小さな電話がある。
黒く、小さな電話、コイツが鳴れば俺はすっ飛んで行くんだと、男は口の端を吊り上げて笑った。
小さな電話に小さな男、自称墓守、白髪の老人。
男の仕事は墓標を立てることだった。
或る日、小さな電話が鳴る、内蔵のベルが乾いた音を立てる。
事務所には椅子と机、そして小さな紙切れ。
その他にはもう、何も無い、紙切れは何一つ書かれずに、何枚も机一杯に広がっていた。
小さな部屋に机、椅子、そして紙切れ。
男の仕事は墓守だったのだ、墓標は何一つ立つ事無く、名前を彫られることももう無い。
墓場には男独り、小さな鶴嘴を持って。